「ごめんね、秋ちゃん。さっきはお父さんが変なこと言って……」

「あぁ、全然」

「あんなの気にしないで、ちゃんと好きな人見付けてお嫁さんにしてね!」


キーを差し込む秋ちゃんに笑ってそう言うと、彼はぴたりと動きを止めた。

あたしに向き直り、まっすぐ瞳を見据える彼。

柳より少し背の高い秋ちゃんの、漆黒の髪が月の明かりに照らされている。


「ひよりちゃん」

「……うん?」

「俺、葉藍にひよりちゃんがいること知って嬉しかったよ。実際に会ったら、もっと嬉しくなった」


薄く微笑む秋ちゃんの手が、あたしの髪に伸びてくる。


「いつの間にか、こんなに綺麗になってるし。久々に君を見た時、すごく驚いたんだよ」


さらりと髪を滑る手と、綺麗だなんてフレーズにドキリとした。

瞳はなんだか熱を持っているように見えて……いつもの秋ちゃんとは何か違う。

でも、その焦点はあたしを捉えていないような、何とも言えない違和感がある。

そんなふうに感じていた時。


「……君のこと、本当にもらっちゃおうかな」


──ドキン、と一際大きく心臓が波打った。

涼しい夜風を感じる中、頬に触れる彼の指先だけが熱い。

これも、冗談……だよね?