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秋ちゃんの授業はとってもわかりやすくて、流れるように耳に入ってくる源氏物語がすごく心地良い。
皆もこの時だけは目をキラキラさせて聞いているし、光源氏と秋ちゃんを置き換えてるんじゃないだろうか。
皆、古典の成績だけ格段に伸びたりして……。
すでに一ヶ月が経つけれど、秋ちゃん熱は冷める気配がない。
そんな彼が、ゴールデンウイーク中のある日の夜、あたしの家にやってきた。
理由はもちろん、お父さんが「ご飯を食べに来い」と誘ったから。
「まぁ秋史くん! すっかり大人の男になっちゃって~」
「ご無沙汰してます」
玄関で両頬に手をあてて黄色い声を上げるお母さんに、秋ちゃんは笑顔で手土産らしきケーキの箱を手渡す。
上がって上がって、と言われた彼はスリッパに履き変え、その様子を見ていたあたしにふわりと微笑みかけた。
「ごめんね、せっかくの休みにお邪魔して」
「ううん! こっちこそ、お父さんが無理に呼んじゃってごめん」
「いいんだよ。俺もひよりちゃんと会って話したかったし」
……あ、秋ちゃんって、学校じゃないと“俺”になるんだ。
今日は完全にプライベートなんだと思うと、なぜか少しドキッとする。