「ごめんなさい…」無意識に澪の口から溢れた言葉
が爽悟には痛い程、伝わってきた。

澪の想いとは裏腹に再び、鈍い音が部屋に響く。
その瞬間、爽悟が椅子を蹴って大きな音がした。

「親のくせに…何も分かんないんやな」いつもと
違う、低く唸る様な声で爽悟は言った。

「澪の想いを握り潰して、暴力で押さえつけて…
澪は自分の気持ちを呑み込んで、あんたの期待と
母親の苦しみを抱えて必死だったんや!
2人を…傷つけたくないから。」爽悟は今にも
飛びかかりそうになる心を抑え、言った。

「澪は優し過ぎる…こんなにボロボロになっても
まだ、2人を信じてるんです。何で…何で、澪の
想いを潰そうとするんですか!」病室だというの
を忘れ、爽悟は声を荒げた。

父はまた拳を振り上げたが、すぐに力が抜けた。
力を失った拳はだらしなく下がり、病室に少しの
沈黙が流れる。

「澪…こんな父親で良かったのか?」俯いた父の
姿は不気味な程に今までの陰を感じなかった。

「全然、お前のことを見ていなかったな。俺は」
そう言って笑った父に抱きしめられて、思わず澪
は声を上げて泣いてしまった。

「時間は掛かるけど…お母さんと一緒に暮らせる
様に澪も手伝ってくれ」父は澪の頭を撫でた。

泣きじゃくる澪をあやす様に背中を撫でると、
澪の幼い頃を思い出して、大きくなった背中に
少しだけ父は込み上げてくるものがあった。