「澪!」早田の連絡を受け、澪の父親が仕事を終え
病院に駆け付けたのはしばらく後だった。

遅くなってすまないと謝る父親の姿を見て、爽悟
は少し安心したが、澪には緊張の色が見えた。

「もう…お母さんと関わるのは辞めるんだ」澪から
全てを聞き、父はため息混じりに吐き捨てた。

澪の頼みで部屋に同席していた爽悟でも分かる程
父の台詞には憎しみが込もっている。

「…俺、女相手に身体売ってた」そう言った瞬間
父の表情曇り、思い切り顔を殴られた。

そうでもしなきゃ、母を受け止められなかった。
同じ罪悪感を背負えば、楽になる気がしたから…
余計自分が苦しむのは承知の上だった。

「やっぱり…あの時に」

「俺にとって、お母さんはお母さんなんだよ!」
父の言葉を呑み込んで、澪は強い口調で言った。

「俺は…また一緒に暮らせるって信じてたんだ。
俺が我慢すれば、お母さんは昔みたいに優しい人
に戻るって…そうすれば、父さんもお母さんを
許してくれるって…」澪はそう言うと、涙で言葉
を詰まらせた。

「もっと…頑張るから。お母さんを助けるから…
俺は……父さんもお母さんも…昔の2人に戻って
欲しいんだ…っ」父のスーツの袖を握り、澪は
泣きながら訴えていた。

また殴られる…そんな思いで唇を噛み、俯いた。
変わってしまった両親。
それを受け入れられなくて、澪は苦しかった。