「僕も…あの子達と同じで、一歩だって前を見て
歩いてみようとはしていないんです。
偉そうなことを言っときながら、多分僕が1番…
あの日に囚われて、後ろ向きになっているんです」
早田は言った。

眠っていても澪はうなされて、早田が握った手は
恐怖を物語るように汗をかいていた。


1週間、澪は学校を休み、波崇達には家の都合だ
と爽悟や早田に伝えてもらった。

爽悟は毎日病院に顔を出していたが、澪は何も
話さず、窓の外を眺めて空返事ばかりだった。

「爽悟…俺、怖い」ひたすら学校での出来事を1人
で喋っていた爽悟に澪が呟くように言った。

「俺…ちゃんと笑えるか自信ない。笑ってなきゃ
自分らしくないのに…っ。皆に話すのが怖くて、
…凄い泣きそうだ」唇を噛んで僅かに震える澪の
弱気な姿につい、ぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫やって…波崇も音緒も誠も、お前のこと
心配してるから。無理しなくていい。あいつらは
大事な仲間やろ?信じてくれるに決まっとる。」
そう言って頭を撫でると、澪が声を押し殺して
泣いているのに気がついて余計心が揺れる。

「ごめん…今は泣きたい」腕の中で肩を震わせる澪
の心が痛いほど身に染みて、これ以上爽悟は何も
言えなかった。