能天気と馬鹿にされていることも露知らず、澪は
軽快に教室へと向かう階段を下っていく。

「…佐々木!!」最後の一段を降りた瞬間、煩い声が
足を止めさせた。

「授業中だと言うのに、お前は何やってんだ?」
体育教師の澤村だ。澪の前に立ち塞がって、
見下すように睨み付けてくる。

「見りゃ分かるでしょ?俺は階段降りてんの!」
茶化すように答え、鼻で笑ってみせた。

そうすれば、みるみる内に顔に血が昇って真っ赤
になって、鼻息が牛のように荒くなる。

馬鹿にしてんのか!!と怒鳴られても、澪の表情は
相変わらず面白いものでも見るように明るい。

「マジ、下らないね。その教師面。笑えるよ」
そう言ったと同時に予想通り、顔を殴られた。

「力でねじ伏せたって何も変わらないよ」
そう言い捨てた澪の目は光を失っていた。