いつの間にか、外は薄暗くなっていて病室を出た
爽悟は自販機でコーヒーを買って、一息ついた。

「…澪?」少し離れた長椅子に座っていた制服姿の
澪はその声に驚いて、こちらを向いた。

そして目が合うなり、歩き出そうとした澪に
何とか追い付いて、肩を叩いて振り向かせた。

「…何があった?」傷だらけの澪は今にも泣き出し
そうで、爽悟は澪を元の椅子へ座らせた。

「何でもない…ただの喧嘩だよ!」そう言って爽悟
から目を反らすと、自虐的に笑った。

椅子に座る澪の目線に合わせて、爽悟は屈んで
肩に両手を置くと小さく震えている。

「澪!喧嘩じゃそんな傷は出来ないんや!
澪…俺は大丈夫や。信じろ!」廊下に少し響いた
声に澪は驚きながらも、目は合わせなかった。

震える手を必死に止めようと握りしめ、俯いて
それをじっと澪は見つめた。

「俺…もう分かんないや」掠れた声で振り絞った
言葉は弱々しくて、自分らしくなかった。

言葉を詰まらせながら、澪はようやく話した。


初等部に入学する少し前、澪の両親は離婚。

2人の兄の内、長男と澪が母に引き取られたが、
父との繋がりがあった為、澪はそのまま初等部に
入学することができた。

両親の離婚は悲しかったが、いつでも父親に会う
ことはでき、そんなに辛くはなかった。

母も仕事をしながら2人を育て、人並みの生活も
送れていた。優しい母…澪は信じていた。