早退した3人は珍しく別れて、波崇は春人の病院
へと向かった。病室の扉を開けようとして、手を
かけたが話し声がして、思わず引っ込めた。

「…俺は最低な奴やから」少しだけ開いたドアから
見えた、ワイシャツ姿の男に見覚えがあった。

青木爽悟…波崇の苛立ちは再び沸き上がる。

「先生なら何か変えてくれる気がするんです」
春人の穏やかな声に、飛び入ろうとしていた波崇
の勢いは止められた。

「…早田先生の言う通り、僕らはあの時から
前を見れなくて、何も変われちゃいないんです。
失うのが怖いから…他人を信じようとしない。
だから、何も言わない澪の行動にも苛立つ。
何も知らないまま、澪を失うのが怖いから…」
春人は言った。

「僕、脳に転移が見つかったんです。
もう、長くないとも言われました。でも波崇達が
知れば、あいつらは余計、前を向くことを諦めて
しまうと思うんです…
僕はそれを邪魔したくないんです。」いつもと
違う、少し大人びた春人の姿に波崇は驚いた。

でも本当は怖い…そんなことを言えば、爽悟は
笑うかと思ったが、表情は変わらなかった。

「…大丈夫や。俺が春人の病気ぶっ飛ばすから
だから…1人で闘おうなんて無茶すんなや」
少し落ち着いた声で爽悟が言った。

約束だといって、爽悟は春人の頭を撫でた。