自分を落ち着かせようと目を瞑れば、絶対に消え
ない記憶が甦り、息をするのが辛くなる。

でも、音緒が帰ってきたことで我に返った。

「今飯作るから。食って帰れよ」少し青白い澪の
表情に優しく笑いかけ、音緒は言った。


「あっ…」音緒が作った夕飯を食べながら、澪は
棚に飾ってある写真立てに気がついた。

「懐かしいだろ?」音緒は笑った。

2人の卒園式の写真。お互いちょっと、変な顔で
写っていて少し笑える。
長い付き合いだなと澪が笑い、音緒も頷く。

そして隣に飾ってある、地区大会の写真…。

波崇と誠、春人も所属していたバスケ部での地区
予選を優勝したときに皆で撮った写真だ。

今の担任である早田が顧問で澪も大会に出場し、
男子に引けをとらない活躍を見せた。

「…うん」2人とも、大会の写真には何も触れず
お互いに上手く話を反らした。


外は完全に日が暮れて、音緒の心配をよそに澪は
マンションを離れ、母の元へ向かった。

ドアが少し開いていて、不審に思いながらも澪は
ただいま、と部屋の中へ足を踏み入れる。

「おかえりなさい」と知らない男の声がした。