時計を見て、「ヤベェ」と小声で言うと、


「それじゃ、また」


斉野君がお店の方に小走りで向かう。


「ありがとう、また」


その背中に向かって、気持ちを込めて。


斉野君の姿が、パッと角を曲がって見えなくなる。


本当は、最初から空いてなかったんじゃないのかな。




……?


ひょこ、と今消えたところから斉野君の顔が出てきて。


「やっぱり、チューしとけばよかった。

また、お店来てくださいね。今度は下心なく向き合います」


また、いたずらっ子の顔をして、


ひょこ、と顔は見えなくなってしまった。