″友達になろう″


だなんて、斉野君のほんの気まぐれ。



「……そりゃ、そうだよね」



連絡先も知らない、もう会う予定もない人と″友達″って……。


せいぜい、

『またお店に来てね』


という意味の、テイのいい営業トーク。


「……そりゃ、そうだよね」


(この辺りで口をついて出てしまった模様)



あたし、何を心配していたんだろ。


いや、心配って言うか…………期待?


うーん、それともまた、違う。


あたしは、不倫をしたいなんて一ミリも思っていないから。


ただ……


ただ、航平との間にいつの間にか出来ていた溝が、深くて冷たくて。


その気持ちをふわりと暖めてくれた斉野君 の言葉が、触れた手の温もりが、 対比するように温かくて。


あたしは、そこに戸惑っているだけ。