「あたし、もう行かないと!」


「そうなんだ、分かった」


「じゃあ、ごめんなさい。また……」


走り出して、ふと大事なことを思い出す。


振り返り、こっちを見ている斉野君に言う。


「言い忘れてた!あたしも、なります、友達!!じゃ、また!」


斉野君の笑顔が、さっきより崩れる。


ばいばーい、と子どものように大きく手を振ると、急に楽しい気持ちになる。


そして、走って、走って。


急いで家に帰る。


航平には、きちんと謝ろう。


咲子をぎゅっと抱き締めよう。


久し振りに、男の人と一対一で話した気がする。

このドキドキは、そのせいだ。



走る度に、耳元で髪の毛が、揺れる。


あたしの足は、一目散に我が家へと向かっていく。