「ありが……とう」


素直にそんな言葉が口をついて出た。


年齢も、職業も、それどころか身分さえ偽っているあたし。


今すぐにでも言った方がいい。


あたし、本当は30歳の子持ちの専業主婦だって。


そこで、ハッと気がついて。


「あの、今何時ですか?」


「今?んー、7時45分」


斉野君が自分の腕時計を見る。


あれは、ハミルトンだ。


昔、それをつけていた彼がいて……いや、今そんなことどうでもいい。


航平が、帰ってきたのが多分7時位……。


一緒に食べられると思って、咲子に夕食を我慢させちゃって。


航平、ちゃんと食べさせてくれたかな?



咲子の分のハンバーグは一口大に切ってあげないといけないし、

白いご飯は後半手が止まるから、玉子のふりかけをかけてあげると食べるんだよね、


……こうしちゃいられない。