斉野君が、はにかむように、笑う。


かわいい笑顔。


仕事場にいないせいか、何だか雰囲気が違う。


「いや、あたしなんて全然……ほんとに」


今だって、夫にきついことを言われて逃げるように飛び出してきたんです、なんて。


折角あなたに切ってもらった髪型も、誉めてもらえなくて、なーんて。


言えるわけないんだけど。





…………?


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


どうやら、斉野君の手があたしの髪の毛に触れたらしく。


髪の毛を、手櫛でとかれるような感触と。


温かい指がほんの少し、頬を掠めて。


「…………っ」


思わず見上げた顔は、月明かりに照らされてとてもとても綺麗で。