―凜said―

あれから半年....。

夏休み目前、終業式の日だった。









龍樹の携帯が震えたのは。









『んだょ、あね........』


着信は京香さんからみたい。

でも、どうしたんだろ....









龍樹が黙り込んで、眉間にシワを寄せた。





そしてあたしと未遥の方に走ってきて









『夏樹の容体が急変したって....今すぐ病院行くぞ』



『え....?』









夏樹....?

容体が急変って....









頭がついていかないまま、あたしは龍樹に引っ張られて学校の裏に止めてあったバイクにまたがる。









『飛ばすから捕まってろ』


龍樹の焦りが背中から伝わってきて、
ようやく今の状況を理解し始めるあたし。








夏樹....
夏樹....大丈夫だよね?









数週間前から、夏樹は体調を崩していた。

抗癌剤治療により、髪は抜け落ち、前よりもっと痩せた。









『りゅ....き....夏樹は、大丈夫だよね?』





龍樹の制服をつよく掴む。








『当たり前だろ』









ー今の状態では....いつ呼吸困難や発作が起きてもおかしくない状態です。






担当の先生が言っていた言葉が頭をよぎる。









夏樹の余命は2年。
もうすぐ、2年が経つ。









わかっている。
そんなこと。
でも....









早いよ....









今までにないスピードで走らせた龍樹のバイクは、1時間で病院についた。









行きなれた病室ではなく、
『ICU』
と書かれたドアの前で、お父さんと京香さんと晴先輩を見つけた。









『呼吸困難で....発作も起きて....』
目を真っ赤に腫らしている京香さんの肩を優しく抱く深刻な顔をしている晴先輩を見て、






あたしは嫌な汗をかいた。









『やだ....夏樹ッ!!』
気づいたらあたしは、龍樹の腕の中にいた。




跳ね上がる心拍数と荒い呼吸は、
龍樹の匂いと温もりを感じても、
いつものようにおさまってくれなかった。









『落ち着けよ....大丈夫だから』


龍樹の表情にも、
いつもみたいな余裕は全然なくて、
龍樹の心臓の音が痛いくらい耳に響く。







あたし達は、身を寄せあいながら、
ただ待つことしかできなかった。








***









どれくらい時間が経っただろう。
外はもうすっかり暗くなっていた。







意識が朦朧としかけた時、
ICUと書かれたドアが開いて、
眠気が一気に吹き飛んだ。








『ッ....先生!!夏樹は....夏樹は!?』








『一命は取り留めました....しかし、もう時間の問題でしょう。今夜が山場です。家族皆さんで寄り添ってあげてください。私達は外で待機しています』








待って....それって....
今夜....夏樹は死んじゃうってこと....?








『面会は?』


『できますよ』







冷静な龍樹の声に、我に帰る。








『夏樹ッ!?』



あたしは病室に駆け込んだ。








ベッドに横たわる夏樹は、たくさんのチューブに繋がれていて、ずごく苦しそうな表情をしていた。









『なつ....き....?』








夏樹の目は固く閉じられていた。