―龍樹said―

静まり返る病室。






『元気でやってたかー?このバカ不良』
先に口を開いたのは夏樹。







『うっせぇな、不良はどっちだアホ』




久しぶりに見た夏樹の顔。







少しの沈黙。

『黙ってて....悪かった。俺....』
『ったく!!!!』


俺は夏樹の言葉を遮った。
夏樹は、驚いた顔をした。








『言い訳なんて聞いてやらねぇ。許すつもりもねぇ』







兄弟のクセに、病気のこと黙ってた。
それがどうしようもなく、悔しかった。








『ふざけた兄貴だ。でも....俺はもっとふざけた弟だ』



夏樹の苦しみに気付いてやれなかった。
自分しか見えてなかった俺は。
自分のことしか考えられなかった俺は。



ただのひねくれたガキだった。








『姉貴から全部聞いた。俺のこと考えてのことだったんだろ....?』









母さんのことで荒れてた俺を、
これ以上苦しめないようにって。










『おう....でも、やっぱり言うべきだったかなってちょっと後悔してる』
夏樹は情けない笑顔を俺に向けた。








『情けねぇ顔してんじゃねーよ馬鹿。』








丸一日考えて。
姉貴の話を聞いて。



俺がたどり着いた答えはひとつ。









『約束しろ、これからはぜってぇ嘘つくな。秘密もなしだ。』








夏樹を支えてやること。









未だに、夏樹があと半年....
来年の夏には死ぬなんて少しも信じられない俺。









『ぉう、わかった。』
久しぶりに見る夏樹の笑顔。
そこには嘘も偽りもなかった。









『....それから....凜を手放す気はねぇ』

俺だって凜が大事だ。
柄にもなく大好きだ。


だから、これっぽっちも別れる気なんてねぇ。








『でも、お前と凜を引き離そうともしねぇよ』

夏樹と凜には、俺の知らない二人の時間があった。



別にそれを知りたいわけでも、
邪魔したいわけでもねぇ。









ましてや夏樹への同情でもねぇ。



よくわかんねぇけど....。

たぶん....いや、絶対。









そうした方がいいに決まってる。








凜のためにも。










『ありがとーな、龍樹。やっぱお前は優しいやつだ!』
夏樹は涙目になりながら言った。




何があっても泣かなかった兄貴が、
こんなに涙脆かったなんて。








『みないうちに余計かっこよくなるしよー、このやろっ』

そう言って夏樹は俺をこついた。





『っせーよ、馬鹿』








すげぇ懐かしい気がした。
こうやって、兄貴と笑いあうのが。


いつぶりだろうな。









なぁ、夏樹。









やっぱりさ....。









死ぬなんて嘘だよな....?









こんなに楽しそうに笑ってるじゃねぇか。
こんなに元気じゃねぇか。









それが....死ぬなんて、ありえねぇよな....?