―凜said―

昨日は一睡もしなかった。
できるわけがなかった。
それでも容赦なく今日という日の朝は来る。





『お待たせ』
京香さんが運転してきた車に乗り込み、
二つ離れた街に向かう。
夏樹のいる街に....




今は午前10時。
一睡もしなかったわりには眠くないあたしは、緊張で心臓が飛び出しそうだった。








『半分無理やりみたいにごめんね』
隣の運転席に座る京香さんは、
タバコに火をつけながらそう呟いた。







『でも、今回逃したらもうだめな気がしたんだよね、あたし』
京香さんはやっぱり美人。
龍樹にも、夏樹にもそっくり。








『いいえ、私も逃げてばかりいられないなって...』

....そういえば....
京香さんは、あたしと夏樹のこと
知ってるのかな....??








そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、
『まさかあいつらが同じ人を好きになるなんてね....』
と苦笑気味に笑った。








『あたしも同じですよ、双子を好きになるなんて』



双子だって、知っていたら....
今と同じように笑っていられたのかな....?







あたしは急に怖くなった。









『運命だと思うよ』
京香さんはタバコの煙と一緒に、
そんな言葉を呟いた。









『え、運命....?』









『夏樹と凜ちゃんが別れて、龍樹と凜ちゃんが付き合って。そんでまた、こうして夏樹に会いにいく。これってやっぱ、すごいことだとあたしは思う』

京香さんの言葉には、
どこか説得力がある。








『運命の人とは、どうしてもまた会っちゃう運命って言うじゃん?』
京香さんは、今日初めてあたしのほうを見て笑った。





龍樹とはどこか違う、
夏樹にそっくりな笑顔で。








『ッ....』
あたしの目からは大粒の涙が溢れていた。








運命なんて、信じたことなかった。
でも、今のあたしは....
信じることしかできなかった。
いや、本当は....
信じたかった。









『2人とも可愛い弟だからさ、どっちの味方ー....って片寄れないんだよね』
京香さんは、龍樹がいつもする
どうしようもねぇ、って顔をした。




龍樹と夏樹は、本当にいいお姉さんを持ったもんだ!!って改めて思った。







気づくと高速を降りていた。
周りの景色は段々と変わり始めていた。