―凜said―

少し痩せて、
伸びた身長と茶色く染められた綺麗な髪。




あたしの目の前には、
紛れもない本物の夏樹がいた。







『久しぶり....元気してた?』
その笑顔も、
何一つ変わってない。








『なつ....き....は?』
あたしは泣くのを必死に我慢した。
嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか....。
よくわからない感情がごちゃまぜ....。






『まぁまぁかな』







夏樹は自転車を停めて、
あたしの目の前に歩いてきた。








『凜、相変わらず可愛いな』

夏樹はそう言って、
あたしの頭を撫でた。








言ってやりたいことも、聞きたいことも、
本当は、全部言いきれないってくらいたくさんあった。






でも、一瞬でそんなこと、
どうでもよくなった気がした。








『夏樹....会いたかったよ....』


あたしはそう言って、夏樹に抱きついた。
龍樹....今だけは....許して。



けど....









夏樹は抱き締めかえしてはくれなかった。








『凜....ごめんな。ごめん』
夏樹はただ、そう言って謝るだけ。






言葉より....抱きしめてもらいたい。
ただ、そう思った。







細い身体の夏樹からは、
あの頃と変わらないフレッシュな感じの香水の匂いがした。








『凜』
夏樹はあたしの身体を遠ざけた。





『夏樹....?』
なんで....?どうして....?








『俺、もうお前とは戻れない』
夏樹は真剣な、でも....
今にも泣き出しそうな顔でそう言った。






え....
なん....

『なんでよ夏樹!!あたしずっと夏樹が帰ってきてくれるってしん....』

『お前には龍樹がいるだろ』



え....?
なんで龍樹の事....








『龍樹は俺の双子の弟』









...え...?
『じ、冗談笑えないよ....?だってそんな話聞いたこと....』



『親の離婚で離れ離れになった』
夏樹は遠くを見つめた。

そして....









『俺も、好きな奴いるし』
そう言って悲しく笑ってみせた。








頭がついていかない。
龍樹と夏樹は双子....!?
いくらなんでも....似てるのは知ってるけど....まさか....本当に?





『じゃ、俺行くわ』
気がつくと、夏樹はもう停めてあった自転車に乗っていて....




『まって夏樹!!!』
あたしは必死だった。




一番聞きたいのは....





夏樹があたしの前から居なくなった理由....


それが知りたくてずっと待ってた。








『なつ....!!』
あたしは大声で叫んだ。
『凜!!』
でも夏樹は、あたしより大声で叫んだ。
そして....








『幸せになれよ』
あたしの大好きだった笑顔で笑った。








あたしは遠くなる夏樹の背中を、
見つめることしかできなかった。








また....あたしの前から消えるんだ....。








置いていかないで....








やっと会えたのに....









夏樹....。