「おかえりー」
「ただいまー、見て!長谷部がチロルチョコくれた!」
握り締めていたチロルチョコを希和に見せる。
「…20円ちょっとの物で嬉しがるとはあんたは本当幸せね」
「えへへ」
「リップクリームちゃんと買った?」
「うん…ほら」
袋からリップクリームを取り出す。
「さっさと開けて塗りなよ、そのガサガサ唇に」
「…うん」
パッケージの箱から取り出した瞬間、昼休み終了の合図のチャイムが鳴ったと同時に5限目の英語の先生が入って来た。
「ほら、さっさと座れー」
「先生、早ぇーよ」
「チャイム鳴っただろうが。ほら、座れー」
「南、ちゃんと塗りなよ?」
先生が注意を呼びかける中、希和は私に注意を呼びかける。
優しい心配屋さんだ。
「うん、塗るよ。ありがとう」
希和に返事をすると空箱をゴミ箱に捨てて席に座った。
いつもは気にしないのにゴミ箱に落ちた空箱の音がやけに耳に入った。