教室にいるあなたと廊下にいるあたしのドア1枚の壁が
まるであたしとあの人との心の壁のように厚く感じた。
あたし、入れない。
ドアを開けてあの人がいるこの教室には入れない。
1歩、1歩と後退りする。
「あれ、南?何してんだ?」
「あ……長谷部」
この階で会うのは珍しい長谷部が近付いて来る。
「早くしないとチャイム鳴るぞ?」
「でも…これ…」
「何だそれ?3年の英語の教科書?
は?なんでお前がチョークも持ってんだ?」
「先生に頼まれて…」
その一言で全てを理解したのか、長谷部は気が抜けていた表情から一変、真顔に変化した。
「……貸せ」
「でもっ…」
「俺、兄貴に用事があるから俺が置いといてやるよ」
「あ……」
あたしの返事を聞くことなく抱きしめる様に持っていた教科書とチョークを長谷部が奪う。
「ほら、チャイム鳴るぞ」
「…ありがとう」
「ん、ほらこれやるから大人しく自分の教室に帰れ」
あたしの頭をポンっと優しく叩くと、手の平にチロルチョコを渡された。
「あたしの好きな味…」
さっきもくれたのに…。
「知ってる。じゃあ、帰れな」
「うん…」