そこではじめて気がついたけど、南くんはこれまで一度も笑顔を見せたことがなかった。




いつも目の下にクマを作って、青白い顔で、眠たそうな目で、無表情に周りをぼんやり眺めていた。




その南くんが今、かすかーにだけど目許と口許を緩めて、あたしを見つめているのだ。





「………みっ、南くんて、笑ったりするんだね……」





思わず心の声が外に飛び出してしまった。



南くんは「え?」と不思議そうな声をあげて、





「そりゃ、笑うことくらいありますよ」




「笑うのはめんどくさくないの?」




「は? 変なこと言いますね、橘さんって」





南くんはまた、笑みらしきものを浮かべた。