「………あ」





いつも持ち歩いている淡い青の折りたたみ傘を開いた瞬間、あたしは「しまった」と焦りを覚えた。





そうだ、この傘……前に使ったとき、枝に引っかけて穴が空いちゃったんだ。



だから、新しいの買わなきゃと思ってたのに、忙しさにかまけてすっかり忘れてた。



あぁ、あたしとしたことが!



長女らしくしっかり者で、いつも用意周到なはずなのに!





―――まぁ、しかたない。


これくらいの小雨なら、ちょっとくらい穴が空いてたって、ずぶ濡れになることはないだろう。





「………橘さん」





穴の空いた傘をさして歩き出そうとしたら、ふいに南くんに呼びとめられて、あたしは驚いて足を止めた。



南くんに名前を呼ばれるのは、はじめてだった。