「続いてお送りします曲は、現在大ヒット上映中の映画《ヲタクものがたり》の主題歌、ザ・フューチャーで【非現実世界】です。ご観賞ください。」





司会者の紹介が終えると、スポットライトは僕らのバンドを照らす。


スタジオは一瞬で静けさを増し、僕は目を閉じる




<チッチッチッチッ>

とシンバルのハイハットの音が僕のなかにあるスイッチを押した。


右手に持ったマイクを口に近付ける



【 非現実世界を求めている
今も・・・僕は・・・
ありもしない現実を作り目を背く
必要最低限な動力エコノミー
矛盾した考えを抱きながら
前へ前へ進み、落とし穴すらない道を
何も考えずに歩いている

好きなことには無邪気になり
嫌いなことは知らないふり
僕は惨めでカッコ悪い
でも、自由で楽しいそんな世界を
見つけたいんだ

知らない世界に憧れて
手探りで幸せを探す
妄想の街のイルミネーション
現実世界に愛情なく
この街だけはファンタジー
知らない間に孤立して
僕はまた一人で笑うんだ

他人の視線なんか関係ない
他人の考えなんか知らなくていい
主人公は僕だから・・・

非現実世界を求めている
今も僕は
大人になれない自分を誇りに思う

非現実世界を信じている
僕の道なんだと

その先に答えがあると
きっと今日も
非現実世界】

音は消えるが

鳴り止まないうるさい客の声、無駄に眩しいスポットライト、生ぬるい僕の汗


いつもと変わらぬ歌の終わりを実感した







だけど、もうひとつ増えた感覚




なぜだろう、君が近くにいる気がしたんだ。