見た目イケメン、中身キモメン


ーー

倉石さんの体温が、震えを取り払ってくれる。

上田くんに飛び蹴りした後、大きな音を立てて地に落ちたから、大丈夫かと心配で来たのに、言葉が出ない。全て涙に変換される。

謝ることも出来ない。赤子に退化。言葉を忘れた。

救いようがない馬鹿を救ってくれる優しい人は、どんな場面でも神様のように接してくれる。

抱きしめられた後、涙を拭かれた。
きっと酷い顔になっているのに、彼はそれでも、良かったと笑ってくれる。

怪我はないかと、逆に心配された。
ぺたぺたと体を触られる。痛む箇所はないかと、入念に触られた。

「わ、私は、大丈夫、です、か……ら」

倉石さんこそ、と打ちつけたであろう彼の体を労ってみせる。

平気だと、一人で立つ彼。私に手を差しのばしてくれた。

相変わらずの無言。
でも、さっき。

「倉石さん、病気治ったんですね」

「……」

「さっき、触れるなって。う、上田くんが私のこと触ったから。わ、私は、倉石さんの恋人ですから、安心して下さい!」

身も心も倉石さんのもの、とは流石に恥ずかしくて言えないけど。証明に抱き付いてみせる。

ややあって、彼の腕が私の背中に回った。

「好きです、倉石さん」

分かりきったことを口にする。

ずっとずっと変わらない想いを彼の中に残したいがため。

欲を言えば、彼にも口にしてほしいのだけど。

「……」

変わらずの無言。
それでも、彼は行動で愛情表現をしてくれる人なんだ。




ーー

背中越しでは、泣き顔を見られない。
泣く彼女なんて、この前一緒に見た犬映画以来のレア物だ。

まじまじと見る。カメラないから、脳内に焼き付け保存する。ああ、鼻水まで出して。レア中のレアじゃないか。

顔がかなりぐしゃぐしゃになったが、彼女なら許せる。可愛い天使は泣いても天使だ。

にしても、泣きすぎだな。
よもや、どこか怪我でも!?

「わ、私は、大丈夫、です、か……ら」

ぺたぺたと触っていく内に、何故だか手が離れなくなった俺に、彼女は無理して笑ってみせる。

そうか。俺を心配して、こんなに泣いてくれているのか。以前、ベランダからダイブした時にノロウィルスと偽らずに、入院していたと言えば、この泣き顔を見られたのかあちゃー。

ともかくも、そろそろ身体チェックする手を離さねばならない。時間経過で合法から非合法に成り果てる。離れるためにも立ち上がった。

ーーが、しかして、彼女の肌の味を覚えてしまった俺の手は名残惜しそうに前に出ている。 

引っ込める前、彼女が俺の手を取った。
自然の流れで立ち上がらせる。

身長高くて良かったと思う瞬間。上目遣い彼女が俺を見ている。二メートルほどまだ伸びたい。

「倉石さん、病気治ったんですね」

「……」

病気?
彼女を病的になるほど好きでいることが見抜かれたのか。

考える間もなく、彼女は続けた。

「さっき、触れるなって。う、上田くんが私のこと触ったから。わ、私は、倉石さんの恋人ですから、安心して下さい!」

あれが上田かあぁ!
くっそ、もう一発殴りたい!

これ以上の暴力行為は過剰防衛だが、知らん。俺の中では、天使にAV演出させた上田として極刑ものだ。

行こうとする直前、彼女が止めに入る。

動けない。抱きしめられた。極刑中止。彼女は、上田にまで慈愛を持つのか。

もやもやとした気持ちがある。
というか、今ので懐のバナナが潰れた。彼女は気付いてないのかヒヤヒヤさえもしてきた。


「好きです、倉石さん」

様々な思いが、言葉一つで抜けた。

すっ、と霞のように霧散した。

「……」

俺も、と言葉に出す前に口付けをする。

行動が先立つ、彼女への愛情。
言葉を忘れるほどに、どうにかなってしまう。

どうしようもない奴だけど、それでも、彼女がそばにいてくれるんだ。

愛情を持ち続けていたい。


ーー

『とりあえず、彼氏さんとK県に温泉旅行行ってきたよ!でも、宝クジ落としちゃったー!まだ換金していないのに!見つけたら教えて!』

との文を、旅行写真送付で呟けば、ほとぼりは冷めた。

ニュースで、K県の観光客激増!とかやっていた。観光客増える前の静かな温泉地に行けて良かったですねーと、倉石さんと話してみる。

相変わらず、私が一方的に話す形。病気は完治していないみたいだった。

それでも、倉石さんと会える度に幸せなので良いのだけど。今日は幸せが二重になっている。

「倉石さんの部屋、やっぱり大人っぽいですよねー」

思った通りの落ち着いたリビング。
黒のソファーに座り、ガラステーブルに置かれたコーヒーを飲んでいた。

倉石さんは私の隣。コーヒー飲まないんですか?と聞けば、頷かれた。

「大学のみんなに、やっぱりお前は馬鹿だと、怒られちゃいました」

「……」

ナデナデされた。

「でも、色々言われましたけど、みんなやっぱり『友達』です。私を慰めるとかで、パーティー開いてくれました」

「……」

もっとナデナデされた。

猫にでもなった気分だ。彼の体に寄りかかる。

「あれ、倉石さん。あっちの部屋は」

「……」

「えっと」

手で目隠しされた。
南京錠がいっぱいついた扉だから気になったのだけど、何か大切な物をしまっているのだろうか。

何にせよ、本人が見られたくないなら無理には見ない。目隠しから抜け出せば、私を見つめる凛々しい顔つきが視界に入る。

近い。だから自然と、目隠し取れた後でも目を瞑ってしまった。

口付けの待機。
でも、なかなか合わさらない。

目を開ければ、彼は一ミリたりとも動いていなかった。

ーーあ、でも。



「倉石さん、何か食べているんですか?」


「…………」



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