「とりあえず、温泉旅行ですよねっ」

「……」

三億円どころか、あなたとの温泉旅行は一兆円あっても足りないというのに!

恋人定番のお泊まり。
混浴だ、混浴に決まっている。男女別でも、彼女が入った後に女湯に侵入しよう。同じ風呂に入る。

夜は、旅館の方が布団をくっつけてくれることを期待ーーいや、金を渡して、布団一つのみにしてもらおう。添い寝だ。

あれやこれやとプラン立てていれば、彼女がやけに楽しそうにスマフォをいじっているのに気付いた。

早速、混浴露天風呂を探してくれているのかと、ニマニマする顔を隠しつつ覗けば。

『みんなー、三億円当てたよー!彼氏さんと温泉旅行行くのと、日頃の感謝で何か贈りたいんだけど、何がいいかな?あと、みんなでパーティーしよう!』

と、ご丁寧に写真送付で呟く彼女のスマフォ画面だった。

「……!」

馬鹿あああぁ!ーーでも、可愛いっ!

スマフォを取るも、ツイッターやっていないものだから、削除の仕方が分からない。

「えっと、どうしたんですか?」

「……!」

とりあえず、これ消して!
と、ジェスチャー。

「あ、大丈夫ですよ。私の呟き、友人にしか見えないように設定していますから」

違ああああう!ーーでも、やはり可愛い!


純真無垢は、人を疑うことを知らない。
友人だろうが、三億の金見れば目の色を変えるだろうに。俺なんか、彼女見た瞬間から目の色ピンクになるほどなのに。

類は友を理論で行けば、心配無用なのだがーー証明はすぐに通話となってくる。

『もしもし、橋本か!ツイッター見たんだけど、マジ!?実は俺、パチンコで負けてピンチなんだけど、五万ぐらいどうにか!』

永劫負け続けろ、と通話終了。
男だったため、こっそり連絡先消しておく。上田か、上田め。

『もしもし、園木(そのぎ)ちゃん!ツイッター見たんだけど、本当に!?実は私の彼氏が、車ぶつけて相手に慰謝料を!』

きちんと贖罪しろ、と通話終了。
女でも、園木ちゃんとか彼女の名前呼ぶので連絡先消しておく。イラッと来た。

この分じゃ、呟きを削除しても意味はなし。友人から友人へと噂が広まっているだろう。スマフォの電源を消しておく。