~美姫 side~



病院に戻るまでの道のり―


蒼…

さっきからなんか様子が…

気のせい?


さっき拓真と手を繋いだこと怒ってるの…?


横で運転してる蒼の横顔をしっかり見ることができなくて

黙って座ってた。



そんなわたしの気も知らないで後ろからは詩織たちの…

いや詩織の声が聞こえてきた。


詩織『あの2人今頃どうしてるのかなぁ〜?』


あの2人?


…あ〜夏妃と俊か。

さっきかるく聞いたけど…

どうしたんだろ?


美姫『そういえばなんで別行動なの?』


さっきからずっと気になってたことを聞いてみた。


詩織『さぁ〜なんでだろーねぇ〜?
あっ!もしかして付き合ってんのかな!?』


夏妃は俊のことそんなによく思ってなさそうだし…

俊だって本気かどうかはわかんないけど
わたしのこと好きだって言ってたのがほんとなら…

たぶん違うと思う。


拓真『夏妃は山瀬みたいな奴苦手だから違うだろ。』


夏妃は真面目だからかるい人とかチャラチャラしてる人あんまり好きじゃない。


わたしは俊が見た目はかるくてチャラチャラしてるようにみえるけど
中身は全然違うこと知ってる。

でも夏妃やみんなは知らないから…


詩織『わかんないよ〜。
こんな時間に2人っきりとか…
絶対なんかある!!』


そうなの?

なんかすごい自信満々なんだけど。

ほんと…

詩織はこういう話好きだよね。

柊と拓真にいろいろ話しかけてるけど

ほとんど詩織の一方通行。


病院に着き部屋で花火が出るのをまってる間―


拓真・詩織・柊の3人は飲み物を買いに自動販売機へ。


部屋の中はわたしと…蒼だけ。


2人っきり…


なんか気まずい。


そっと蒼の顔をみると


蒼もこっちみてる…


蒼『…やっとこっちみた。』


いつからみてたんだろ…?


ギュッ


蒼『美姫は…俺の事好き?』


いきなり抱きしめられ耳元で蒼の低い声が小さく響いた。


美姫『好きだよ?』


蒼『俺と五十嵐どっちが好き?』


え…?

なんで拓真が出てくるの?


蒼『…どっちが好き?』


どっちがって言われても…

そんなの…


美姫『そんなの…比べられる訳ないよ。』


だって


美姫『そんなの比べることがおかしいよ。
拓真の事好きだけど蒼の好きとは違う…
拓真は大事な友だちだから…』


拓真はもう何年も前から

こんなわたしの傍にいてくれたんだよ。

拓真がいたから両親がいなくても

入院生活が長くても頑張ってこれたんだよ。

だから蒼には悪いけど

嘘でも拓真の事嫌いなんて言えない。


わたしは拓真の事好きだよ。




でもこの「好き」は恋愛の「好き」じゃない。


「幼なじみ」として


「友だち」として


「家族」としての



「好き」。



恋愛として恋人として一緒にいたい人


手を繋いだり

抱きしめられたり


…キスしたりしてドキドキするのは





あなただけだよ。



蒼『…ごめん。俺が大人気なかった。』


さっきよりもキツく抱きしめ謝ってきた。


美姫『…ううん……わたしこそごめんね?』


蒼の大きな背中に手を回し

抱きしめると


蒼『…こんなこと他の奴にすんなよ?』


美姫『しないよ。
蒼だからするんだよ?』


抱きしめられてた胸から顔を離し

蒼の顔を…

目をみつめた。


蒼『……キスしていい?』


美姫『え!?
ダメだよ…ここ病院だし…』


そろそろ拓真たち帰ってきちゃうし…


蒼『前も病院でしたじゃん。』


意地悪な顔でそう言ってくる。

前に病院でキスした時―


それは…

わたしたちが両想いになった日。

わたしたちがはじめてキスをした日。


美姫『…それはそうだけど…でも今はダメ!』


そんな事を言ってると



ヒュ〜〜〜.........ドォーーッン!!


花火の音がして


美姫『わぁ〜花火っ!あっち行こ!!』


近くでみたくて窓まで行こうとしたとき


グイッ


え…?


腕が蒼に引き寄せられ


チュッ


ドォーーッン!!


唇が重なるのと同時に

花火の大きな音が響いた。


突然の事でパニクってるわたしをみて


蒼『…しちゃった。』


とクスクス笑ってる。


美姫『なっ……!』


言いかえそうと口を開くと


ガラガラガラッ!!


詩織『あ〜〜花火始まっちゃってる!!』


勢いよくドアを開け詩織たちが帰ってきた。


柊『…お前が早く決めないからだろ。』

詩織『だってさぁ〜…』


2人が言い合ってると


拓真『はい。美姫これ好きだろ?』


飲み物を持ってきてくれた。


わたしが好きなのちゃんと覚えててくれてるんだね。


拓真はわたしたちに飲み物を渡すと詩織たちのところへ行ってしまった。

わたしもみんなのところに行こうか

と思ってると


ギュッ


蒼の手が…


美姫『どうしたの?』

蒼『…今ならいいだろ?
……さっき我慢してたんだから。』


そういって手を絡ませてきた。


やっぱさっきの…

拓真と手繋いでたの気にしてたんだ。


美姫『…ん…いいよ。』


そういってわたしもギュッと握り返した。


拓真たちが窓から花火をみてるなか

わたしと蒼はベッドに座って…

手を繋いで花火をみていた。



花火が終わり

パジャマに着替え

拓真たち3人は帰った。

浴衣も拓真に持って帰ってもらった。



また蒼と2人きり…


花火も終わりさっきまで騒がしかったのが嘘のように部屋の中はシーンと静まっている。


蒼『…美姫?』

美姫『なに? 』


名前を呼ばれ蒼をみると


蒼『こっちきて。』


隣にいるのにもっと近くに来るように

ベッドをポンポン叩いている。


言われたとおりにさっきよりも近くに座ると


蒼『もっと。』


…もっと?

もっとって…これ以上は…


美姫『これ以上行けないよ?』


今だってぴったりくっついてるのに…


蒼『じゃあ俺の上おいで。』


…え!?

そんなサラッと…


蒼『はやくー。』


なんか…

遊ばれてる?


蒼『ほらはやくこーこ。
俺の言うこと聞くって言っただろ?』


膝を叩いて来るように言ってくる。

確かに言うこと聞くって言ったけど…

なんか…恥ずかしい。

いろいろ考えていると


蒼『…ほらここ。』


わたしの体を軽々しく持ち上げ自分の膝の上にのせてきた。


美姫『ちょっ…!』

蒼『美姫があんまり遅かったから。』


えぇ…

だって恥ずかしいじゃん。

ていうか…

今も恥ずかしいんだけど。


蒼『美姫…キスして?』


……え?


蒼『キスしてくれたら五十嵐と手繋いだの許す。』


…まだ気にしてたんだね。

すごい恥ずかしいけど…

機嫌直してほしいし…


…チュッ


恥ずかしくて蒼の顔が見れなかった。


美姫『…これでいい?』

蒼『ん…よくできました。』


ニコッと微笑んでもう1度


今度は蒼から…


長いキスをした。


何回も…

何回も


時間を忘れて…


♪ピンポンパンポーン♪
『夜9時になりました。
患者様は就寝のお時間です。
面会のみなさんもお帰りのお時間です。』

就寝前の放送が入った。

…そういえばもうそんな時間か。


蒼『…もう帰るか。』

美姫『…そうだね。』


ほんとはもっと

もっと蒼といたい。

でも…

今のわたしは入院してるんだもん。

だからしょうがないよね…。


蒼『早く寝ろよ?』

布団をかけ頭を優しく撫で蒼は帰っていった。