~拓真 side ~
病室に行きベッドに美姫を寝かすと
親父が点滴の支度をして部屋に入ってきた。
五十嵐先生『じゃあ美姫ちゃんが起きない内に
点滴しちゃおうか。』
そう言って腕を縛り血管を探し出した。
美姫の血管は細いから点滴をするだけでも
なかなか大変らしい。
しばらく探してると
美姫『……ん…』
起きちゃったかな…?
寝てる間に刺しちゃいたかったんだけど…
親父もやばいと思ったらしく1回手を離して
美姫の様子をみてると
美姫『…ん〜…』
眠たそうに目をこすって体を起こした。
美姫『…ここ…病院…?』
あれ?
さっき車でも話したよな?
やっぱ覚えてないのか。
拓真『ん…そうだよ。』
そう言うと俺のほうをみて
美姫『……おじさんには言わないでって
言ってるのに…』
さっきもそれ言われたな。
確かにいつも親父に言うなって言われてるけど…
前に親父に言われた言葉…
「患者の意見を尊重するのは大事だけど
それよりも患者の体を優先しなきゃダメだ。
患者の体を第一に考えるのが俺たち医者の
仕事だ。」
俺が医者になりたいと言ったらそう言われた。
美姫は体調が悪くてもそんなこと言わないで
いつも倒れるまで無理する。
いつも親父に言うなって言われてるから
美姫の意見を尊重してある程度は黙ってる。
でもキツそうな時は美姫の意見を聞かないって決めた。
美姫には悪いけど
美姫の体が大事だから。
拓真『…ごめんな。』
五十嵐先生『拓真が言わなくても来てもらう
つもりだったけどね。』
美姫『え…!?』
五十嵐先生『美姫ちゃんのことだから
こうなるだろうなって思ってたからね。』
さすが親父。
ずっと主治医してるだけあって美姫のこと
わかってるな。
五十嵐先生『…さて点滴しようか。』
さっきと同じように腕を縛ろうとすると
美姫『いやっ…!』
腕をふとんの中に隠してしまった。
熱があるせいかまだこどもっぽいままの美姫。
いつもなら泣きそうになりながらも大人しく言うこと聞いてるんだけど…
この美姫はわがままで甘えん坊で
かわいいんだけど…
こういう時困るんだよな。
なかなか言う事を聞いてくれない美姫に
手こずってると
蒼『ほら五十嵐先生困ってるだろ。
点滴やれば体も楽になると思うし頑張ろ?』
今まで黙ってみていた紺野が美姫を説得してくれた。
美姫『……痛いのやだ。』
…そんな簡単には行かないか。
五十嵐先生『なるべく痛くないようにするから少し頑張ろうか…?』
美姫はまだ嫌そうな顔をしてたけど
黙って頷いてくれた。
五十嵐先生『えらいね。
…じゃあやるよ。』
腕を縛り使えそうな血管を探し
針を刺した。
美姫『…いっ…た……』
五十嵐先生『痛かったか〜…ごめんね。
でもちゃんといいとこに入ったからもう大丈夫だよ。』
薬を繋げて点滴スタート。
美姫は目にはたくさんの涙。
それがこぼれ落ちないように必死にこらえている。
五十嵐先生『美姫ちゃんしばらく入院ね。』
やっぱそうなるよな。
なんとなくそうなるとは思ってたけど…
美姫をみると
さっきより不機嫌。
ものすごく嫌そう。
いつもなら言うこと聞いてくれるんだけど
今の美姫は…
美姫『…やだ…学校行きたい。』
五十嵐先生『あと1週間で夏休みでしょ?
夏休みには検査とかで入院してもらうつもり
だったからちょうどいいよ。』
ご不満な様子の美姫。
美姫『……みんな来てくれる?』
そんな顔でそんなこと言われたら断れないだろ。
…断るつもりなんてなかったけど。
拓真『…もちろん。』
言われなくてもそのつもりだったし。
不機嫌だった美姫がようやく笑ってくれた。
そんなとき
♬♪。.:*・゜♬
紺野のケータイがなった。
少し話して電話を切ると
蒼『すみません…これから会議があったの
忘れてて…
美…桜空の事お願いしてもいいですか?』
五十嵐先生『もちろんです。
こちらこそわざわざすみません。
ありがとうございました。』
親父と話し部屋を出ようとする紺野を
美姫が引き止めた。
紺野の服を掴んで
蒼『美…桜空?』
美姫『…もう帰っちゃうの…?』
蒼『…あぁ…ごめんな。
また来るから。』
そう言って名残惜しそうに紺野は帰った。
親父もそのあと部屋を出ていき
部屋には俺と美姫の二人きりになった。
美姫はさみしそうにベッドに座ってる。
さっきの美姫…
かわいかったな。
あいつにはあんな風にしてるのか…
俺にも甘えてくるときもあるけど
体調が悪いときだけ。
なんか…くやしいな。
俺のほうがあいつよりもながく一緒にいて
あいつよりも美姫のことわかってる。
美姫を想う気持ちも負けない。
…なのに
俺じゃダメなんだよな…
あいつといる時の美姫は俺の知らない顔をしてる。
頭ではわかってても目の当たりにすると
キツイな…
こんなに近くにいるのに
俺の気持ちは美姫には
届かない