~美姫 side~
ブーッ…ブーッ
まだ震えているケータイをみつめていた。
話すって決めたの出れない…。
ちゃんと話さなきゃって頭ではわかってる。
でも…
なんでかな。
あんなに大好きだった蒼と話すのが怖い。
叩いちゃったし…
「別れよう」
何て言われたら…
と思うと怖くて出れない…。
そんな事を考えているとケータイの音が止まった。
…止まっちゃった。
何でだろ…
少しホッとしてる自分がいる。
そんな時
ブーッ…ブーッ
蒼からの電話…
どうしよう。
出ようか迷っていると
コンコン
拓真『美姫?どうした?何かあった?』
急に話しかけられビクッと反応してしまった。
美姫『な、何でもないから大丈夫だよ!』
自分でもわかるくらい挙動不審な返事。
拓真『??まぁ何でもないならいいけど…
何かあったら言えよ?』
きっと拓真は何でもなくない事も
わたしが挙動不審な事も全部わかってる。
でも聞いてこない。
ほんと…優しいな。
お礼を言おうとした時
美姫『うん。ありがとね…って……え!?』
拓真『ちょっ…美姫!?どうした?』
どうしたって…
小さな音が聞こえるからまさかと思ってケータイをみたら…
蒼と通話中に…。
急に話しかけられて思わず通話ボタン
押しちゃったんだ…。
ガチャ
拓真『美姫?』
心配してくれたのか拓真が部屋を覗いてきた。
美姫『えと…何でもないから大丈夫だよ!
大きな声出しちゃってごめんね。』
そう言うと拓真は部屋を出ていった。
でも…問題がまだ残ってるんだよね。
ケータイはまだ通話中。
…でないとだよね。
美姫『…もしもし。ごめんね。
通話中になってるの気づかなくて…。』
おそるおそる電話の向こうの蒼に話すと
蒼『…今どこ?』
蒼の声が耳に響きなんだかくすぐったい。
まだ怒ってるかどうかわからない。
でも声を聞けたのが嬉しかった。
蒼『なぁ…今どこ?』
黙っているともう一度聞かれた。
「拓真の家」
何て言ったらまた機嫌悪くなっちゃうかもしれない。
でも嘘はつきたくない。
だから
美姫『拓真の家。
でも蒼が思ってるような事は何もないよ。
詩織達もいるし…』
誤解されないように必死に説明すると
蒼『別に疑ってないから…
そんなに必死になんなくていいよ。』
あれ…?
優しい。
機嫌が悪かった蒼じゃない…。
声でわかる。
今の蒼は優しくて…
いつもの大好きな蒼。
蒼『美姫…』
美姫『え…なに?』
蒼『ごめん。』
ボソッと謝ってきた蒼。
美姫『もう怒ってないから大丈夫だよ。
…わたしこそ叩いちゃってごめんね。』
蒼『……』
あれ?
返事が…
どうしたんだろ。
ケータイの向こうに耳を澄ますと
蒼『ハァー…よかった…嫌われたかと思った…』
わたしに聞こえないようにか
聞こえるか聞こえないかのすごく小さな声が耳に響いた。
こんな声聞いたことない。
今日の事反省してたんだ…。
美姫『嫌いになんてならないよ?』
蒼『!?…聞こえてたのかよ。』
やっぱり聞かれたくなかったのか…。
びっくりした後小声でそんな事言うんだもん。
すぐわかるよ。
美姫『…うん。なんかごめん。』
蒼『…カッコ悪いな…俺。』
美姫『…うん。』
蒼『…そこは「うん」じゃないだろ。』
美姫『ふふっ…ごめんごめん。』
蒼…
ほんとはね
カッコ悪いなんて全然思ってないよ。
嫌われたくないって思ってくれて嬉しかった。
美姫『…わたしも嫌われたかと思った。』
蒼『何で?』
だって…
美姫『叩いちゃったし…』
あの時はほんとに冷静になれなくて思いっきり叩いちゃったから…。
蒼『あーあれか。全然大丈夫。』
「大丈夫」って…
かなり強くやっちゃったんだけど…。
美姫『でも…』
蒼『全然痛くなかったし。』
……ムッ。
なんだろ。
なんかムカつく。
確かにわたしは力弱いから痛くなかったかもしれないよ?
それに傷が残らなかったのはいい事だと思う。
だけどさ…
全力でやってダメージ与えられないって…
何かなぁ…。
美姫『今度はもっと強くする。』
蒼『今度なんてないから。』
「今度なんてない。」
サラッと言ったその言葉が
もうあんな事はない
と言ってるように聞こえて胸がキュンとなった。
そんな時―
蒼『それで美姫に話さないといけない事があるんだけど…』
美姫『…え?』
急に声のトーンが低くなった蒼に何だか嫌な予感がした。
話さないといけない事って何…?
「聞きたくない。」
瞬発的にそう思った。
でも…
何の話なのか気になる。
蒼が話し出すのを待っていると
蒼『……別れよう。』
その言葉を聞いた途端わたしの頭の中は真っ白になり
気づけば電話を切っていた。
そして
わたしの時間がとまってしまった。