~美姫 side~



『…さっきのアレ何?』


手をひかれ保健室に入るとそう言われた。

さっきのアレ?

アレって…

ていうか…

蒼…機嫌悪い?


蒼『美姫さ…五十嵐と付き合ってんの?』


あ〜その事か。

そんなの…


美姫『付き合ってないよ。』


付き合ってる訳ないよ。

だってわたしには蒼がいるんだもん。


蒼『さっき言ってただろ。』


確かに拓真と付き合ってるって言ったよ?

言ったけど…


美姫『あぁ言わないと信じてもらえそうになかったから…』

蒼『…五十嵐も認めてたじゃん。』


それは…


美姫『合わせてくれたんだよ。』


もし拓真が認めてくれなかったら…

わたしと蒼の事バレてた。

だから感謝しなきゃ。


蒼『……まぁそのほうがアイツには都合いいしな。』

ボソッと何か呟いた。

…今なんて言った?

声が小さくて聞き取れなかった…。

聞きなおそうとした時


蒼『…つーかさ…匿名の電話とかFAXって
五十嵐やいつもの幼なじみがやったんじゃねぇの?』


……はい?

何言ってるの…?


美姫『そんなわけないでしょ。』


拓真たちがそんな事するわけないよ。


蒼『じゃあ他に誰がいんの?
俺たちの事知ってんのって五十嵐と松本たちくらいだろ。』


確かにそうだよ。

そうだけど…

拓真や詩織たちがそんな事するはずない。

そんな事する人じゃないよ。


「なら誰がやったの?」

そんなの…

そんなのわかんないよ…。

わかんないから困ってるんだよ。


…でもね。

蒼…

なんで拓真や詩織たちの事そんな風に言うの?

確かにわたしたちの事知ってたのは拓真たちくらいだったよ。

だからそう思うのは仕方ないのかもしれない。

それでも信じて欲しかった。

拓真たちはそんなことしてないって

信じて欲しかったよ。


美姫『…なんでそんな事言うの?
拓真たちがそんな事するわけないでしょ!
なんで信じてくれないの!?』


拓真たちの事を信じてくれない蒼に

みんなの事を疑っている蒼に

だんだんムカついてきてキツく言うと


蒼『なんで五十嵐の味方するんだよ。』


なんでって…


美姫『蒼が拓真たちの事信じてくれないからでしょ。』


そう言い返すと


蒼『…そんなに五十嵐がいいなら五十嵐と付き合えば?』


………え?

今…『拓真と付き合えば?』って言ったの…?

……なんで?

なんでそんな事言うの?


美姫『わたしが拓真と付き合ってもいいの?』


訳がわからなくてもう一度聞き直すと


蒼『…あぁ。』


蒼がそう言った途端


パーンッ!!


わたしの手は蒼の頬にビンタしてた。


美姫『…サイテー。』


そう言ってわたしは保健室を早足で出ていった。


ほんと…最低だよ。

機嫌悪くても言っていい事と悪い事があるよ。

本気なら余計にムカつくけど。

拓真たちの信じてくれなかった事が悲しくて

簡単に他の男と付き合えば?って言われた事が悲しくて…

早足で歩いていると

目にはどんどん涙が溢れてきて…


ほんとは今すぐ泣きたい。

でも…

今は泣けない。

そんなところ拓真にはみせれない。

みせたくない。


だから今は我慢。

家に帰ったら思う存分泣こう。


そう心に言い聞かせ

目に溜まった涙を制服の裾で拭き

拓真の待っている靴箱へ向かった。