唐突なその出来事に、私は目を丸くした。
私の髪に通った骨ばった細長い指。
「…綺麗な髪」
このとき、初めて自分の真っ直ぐな黒髪が誇らしく思えた。
本当は茶髪っぽいくるっとしたくせっ毛に憧れていた。
女子っぽくて可愛らしいから。
でも私には似合わない。
だからずっとこの黒髪セミロングを保ってきた。
「あ、ごめん。つい…」
目の前にいた男子は、格好良くて一瞬目を疑うほどだった。
茶髪の束感がカッコいいのに、耳の後ろから少しだけ出た髪は何だか可愛くて。
絶対モテるだろうな、って感じの人。
左耳だけにつけたピアスは、とてもシンプルなブルーダイヤのピアスなのに、それすら格好良いと思えた。
「…別に良いです」
「如月柚木、だよね。よろしく」
初対面の人は大体、冷たくすると悪いイメージを勝手につけて離れていくのに、この人は違った。
離れていかない。
それどころか、よろしく、だなんて。
さっきの愛想のない自己紹介も、ちゃんと聞いてくれていたなんて。