『それ』の姿が月を背にして影を作る。
突如、その影が体積を増していき真紅の刃の大きな鎌をかたどった。
蒼く光る月に浮かび上がる『それ』は古くから言い伝えられる『死神』のようだった。

『目標に接近10m・・・6・・・4・・・1・・・降下』

前は自動車のスプラッタ場だったと思われる廃工場の中にその『何か』は居た。
人間になりきれなかった人間というべきか。

蠢く影で出来た身体には人間の腕が胴体の右側にニ本、左側に四本。
指は七本のものもあれば一本も無いものもある。
下半身には二つの突起物がついており、地面と接している部分がたまに波打つ。

振り向いた『何か』の首から上はもはや人とは呼べない。
かろうじて髪だと分かる細長い無数の影の糸は月光を吸収し、それぞれに意思があるかのように様々な方向へと伸びている。
顔面には大小それぞれの眼球が九つ中央部分に縦に裂けた口があった。

『それ』は『何か』に向かって一直線に落ちていった。
大鎌を目いっぱい振り上げ、振り下ろす。

両刃のそれは内側の刃で『何か』を切り刻み外側の刃で引き裂いた。
あっという間に『何か』は形を保てないただの肉塊となって地面に散らばった。