『これより捕縛に移る』

がばっ、と肉塊の欠片を全て包み込み、先ほどと同じ行為を繰り返す蝙蝠。
それが終わるまでの数分間『それ』は鎌を手の中で弄びながら待っていた。

「・・・もうすぐ、夜が明ける」

宙に視線を彷徨わせ、誰に言うとでもなく呟いた。
『それ』の言ったとおり空はうっすらと日に染まり、建物に隠ながらも太陽が姿を現していることを示していた。
確実に昇りつつある太陽は、空に色をつけ『それ』の真紅の髪を一層紅く映し出した。
日の光の眩しさに目を細めながらも、『それ』は太陽から目を逸らそうとはしない。

『完了だ』

元の大きさにまで戻った蝙蝠は『それ』の横に並ぶように飛んでいる。

「帰ろう。朝は私達の領域じゃない」

『それ』は太陽から逃れるかのように背を向けると、廃工場の上へ人間とはかけ離れた跳躍力で飛び乗った。
夜の闇を跳ね回った漆黒の『それ』は、朝に追い立てられるようにして姿を消した。