酒が入った須藤は前以上に、じょう舌になりコチラの理解を置き去りに喋り続けた。

ただし僕も幾分か酒が入った為か須藤とのお喋りに苦痛を感じる事なく付き合う事が出来た。

店内に入ってから二時間もすると僕は苦痛どころか次の場所を考え始めた。

須藤は女の子の居る店を希望したが、生憎と僕はその手の店には殆んど行かない。

ただ一軒だけ高校の時の同級生が営んでいる店があるので、そこへ案内する事にした。

スナックやキャバクラが多く入っている駅前のテナントビルの5階にその店はある。

僕はいい気分になっている須藤を連れて、そのビルのエレベーターに乗り込む。



居酒屋では須藤と様々な話をした。

彼は文学部の出身で本気で小説家を目指した時期があったとか、今の奥さんとは大学時代からの付き合いで、出来ちゃった結婚だったとか、奥さんの親父さんが厳格な人で彼女との結婚の為に苦渋の選択をして就職した事などを。

僕は僕で珍しく自分の事を彼に話した。

今の仕事はソツ無くこなせるだけで好きでも嫌いでも無い事とか、明子と付き合ってから2年以上になる事とか、結婚を真剣に考えていた事とか、その気持ちに今揺らぎを隠せない事を。

ただし夏恵の事は自然と口から出る事は無かった。