須藤のチェックは完璧だった。
カウンター席に設置されたスツールのメーカーまで周到に調べ、抱えていたデジカメで様々なアングルから撮影した。
僕はただただ須藤の無駄の無い動きに感心するばかりだった。
僕は居心地が悪くなり、以前来店した時に明子と座った席を探した。
席は奥まったボックス席の一角にあり、剥き出しのコンクリートの柱に阻まれ隔離された様な印象を受ける。
僕はその席に座りホールで慌しく動き回る須藤を眺めた。
彼はまるでよく教育の行き届いたウエイターの様に相変わらず無駄なく動いていた。
『吉岡さん。ちょっと電話してきますわぁ』
少し放心していた僕に須藤は呼びかけた。
僕はとっさに返事が出ず、ただ頷いた。
僕は須藤が居なくなった店内を見回し、昔の記憶を引っ張り出そうと試みた。
しかし、この場で明子と交わした会話は一つも思い出す事が出来ず、夏恵の息遣いだけが僕の思考を占領した。
僕に反応する夏恵の息遣いが占領した。