翌朝僕は目覚まし時計よりも早く目を覚ます。

リビングの方で明子が慌しく動く物音が聞こえる。

明子がいつもの様に朝食を作っているのだろう。

僕はよく見かける朝の風景の中にいる。

けれど昨夜の明子の事を思い出し、いつもと変わらない風景に違和感を感じる。

寝室の扉を開けると、そこに居るのはいつもの明子だろうか?

それとも何か違う明子だろうか?

僕はそんな不安にかられてベットから出る事が出来ない。

寝室から出る事が出来ない。


明子は、そんな僕の心配を他所に寝室のドアを開ける。

そして不安にまどろむ僕を見つける。


『おはよ』


明子はいつもの様に優しく微笑みながら言った。

僕は一瞬ほっとする。彼女のいつもと変わらない笑顔を見る事が出来た事にほっとする。

しかし彼女に掛ける言葉を思い出せない。

簡単な『おはよう』の言葉さえ搾り出す事が出来ない。

明子はそんな僕に優しい微笑みを浮かべたまま『ご飯できてるよ』と言う様な感じの目配せをする。