僕は目を開ける事が出来ない。
まぶたを開けて揺れる月の光に照らされた明子を見る事が出来ない。
明子に掛ける言葉も思いつかない。
快楽の放出の後に僕の頭の中は、また不安に埋め尽くされる。
開けた窓の隙間から心地よい風が僕の顔を撫でる。
しかし、今の僕にはその風を心地よく感じる事が出来ない。
相変わらず目を開ける事の出来ない僕に吹き付ける風が時折居るはずの無い『夏恵』の息遣いを感じさせる。
うかつにも僕は、その風に誘われて目を開ける。
息遣いの主は明子だった。
明子は月の光を優しく体に受けながら、僕をじっと見ていた。
月明かりだけでは明子の表情を窺い知る事は出来ないが、彼女の視線はずっと僕を捉えていた。
僕は声を出す事が出来ず、ゆっくりとまた瞼を閉じる。
突然思い出した様に疲れが僕を包む。記憶の薄れていくのを感じる。僕はそのまま眠りに就く。