『私、トモの言う事は分かってるの』

『俺・・・単純だからね』

『ううん違うよ・・トモは単純じゃないよ』

『・・・そう?』

夏恵は軽く微笑みながら、また僕の方を向き直し僕の胸に顔を埋めてきた。

僕は彼女の髪に鼻を寄せて、昼間に二人で子供の様になって遊んだ海の潮の香りを嗅いだ。

その香りは海水の乾いた香りだったが、その時の僕にとっては夏恵の香り以外の何物でも無かった。

僕は僕の胸に埋もれている夏恵の顎を引き上げ少し強引に唇を寄せた。

潮の乾いた匂いと夏恵の香りが僕を包んで薄っすらと暗闇の広がる東の空に僕は吸い込まれそうになった。

淡い色と感情が僕達を包む。

まどろみにも似た切なげな欲求が僕を突き動かす。