『・・・・・ヒグラシ?』
『・・そう蜩・・・好き?』
夏恵は嬉しそうに僕に問い掛ける。
陽も西に沈みかけた頃の浜を見下ろせる小高い場所にある海岸公園で夏恵は蜩の鳴き声に耳を澄ませる。
『・・・ヒグラシってセミ?』
僕の無粋な答えは夏恵の耳に響く蜩の音色を遮った。
彼女は眉間に軽く皺を寄せて、僕の方に振り向いて呟く。
『蜩は蝉じゃないわ・・・蜩よ。』
『ひぐらし・・・ねぇ』
『そう蜩・・・』
『・・・気にした事ないなぁ・・・』
『・・・そっか・・・ガッカリ・・・言うと思ったけど』
そう言うと夏恵は、また正面の浜辺の方を向き直し微笑みを浮かべた。