やがて彼女が4杯目を飲み干し僕が6杯目の途中で皿の上の最後のチーズをつまんだ時に彼女が突然に言葉を吐いた。
『わたし夏恵・・・あなたは?』
今、僕の前にただ闇雲に進むしか無い道の先に指標が突然現れた。
僕達の後に誰も来ていない。
カウンターの奥で手持ち無沙汰になったマスターが棚の中のコーヒーカップを丁寧に乾いた布で拭くカチャカチャという音と、微かに流れるゆうせんのクラシックと、外の雨が地面と窓に優しく降り付ける音が響く。
『トモ・・・トモユキ』
雨はまだ降っている。
雨は暑かった街を優しく濡らし温度を奪った。
だが雨を逃れた僕と夏恵の温度を奪う事は出来なった。