『・・・ビールは二杯はいらないかなぁ・・』
彼女は二杯目のお酒を悩んでいた。
僕も同じ様に三杯目に頼んだソルティドッグの次に頼む物を悩んでいた。
『・・・俺はウィスキーにしようかな』
『あっじゃぁアタシも同じの頼もう。』
安っぽいサラミとチーズの盛り合わせを囲んで僕と彼女はしばし談笑を楽しんでいた。
しばらく彼女と飲んでいるが、僕はまだ彼女に聞いていない事がある。
ひとつは、彼女はなぜあの雑居ビルの五階に行ったのか。
ふたつめは、雨の降る僕にとって全く未開の地に降り立ち、僕の前に降臨した素敵な笑顔の持ち主の名前。
僕は素性も名前も分からない彼女と今至福の時を過ごしている。
彼女の仕草が声が笑顔が僕の渇いた部分に染込んでくる。
僕は潤った感情を隠せずにはいられない。
それは嬉々と話す僕の口や肌や目から溢れ出してくる。
そんな今の僕には些細な疑問などは問題じゃなかった。
今僕の前に笑顔で話す彼女の姿さえあれば良かった。