僕は夏恵を愛した。

強く強く愛した。

そして夏恵も夏と同じ様に僕を愛した。

その愛は危うかったが確かに愛だった。



今更遅いのかもしれないが、僕の疑念は晴れた。

僕は夏恵を確かに愛していたんだ。



僕はポケットから携帯を取り出して電話を掛ける。

出る筈も無い夏恵の携帯は僕のポケットの中で静かに震えた。

やがて誰も聞く筈の無い留守番応答に切り替わる。

だが僕は構わずに言葉を放つ。



『・・・夏恵、君が誰であろうと関係無い。僕は夏恵と夏恵の愛したこの季節を愛していた。・・・ありがとう』



潮騒は優しく僕の声をかき消した。





 ~終~