一瞬エレベーターを待つのを躊躇った。
階段を使おうかとも思った。
だが恐怖心と共に強い好奇心に包まれて僕はエレベーターの前から身動きが取れなかった。
ゆっくりと数字が5から4へと変化した。
『―――チンッ』
一鳴りのベルの音と共にエレベーターの視界が広がる。
同時にエレベーターの中からヒンヤリとした空気が漏れ出す。
やがてドアは全開し僕の前に小さな小部屋が現れる。
エレベーターの中に女は居なかった。
僕はホッとしたと同時にひどくガッカリした。
『馬鹿げた事を考えたな』と自分の事が可笑しくて、軽く鼻で笑った。
僕はエアコンの効いたエレベーターに乗り込む。
微かに女の香りが残っている様に感じた。
あの白いブラウスの隙間から漏れ出した、あの清潔な香りが薄汚いエレベーターに残っていた。
エレベーターはゆっくりと閉まり、残り香と僕を乗せて地上へと降りて行く。
外の日差しは弱まる事なく僕の上に降り注ぐ。
そんな事を考えると僕は憂鬱になり汚いエレベーターの壁に体を擡げる。
あと5秒もすれば僕は夏の日差しの下にさらされる。