『トモさん・・・ハルミを恨まないでやって下さい』


『え?』


『ハルミは病んでいました・・・私は身勝手にも彼女をほうって仕事に打ち込みました。それは逃げ以外の何ものでもありませんでした。私は最低です・・・夏恵が死んだのを全て彼女に押し付けて現実から逃避しました』


『・・・安西さん』


『妻が少し一人になりたいと言ってきた時に、妻にリゾートマンションの鍵を渡した時から・・・』


そう言って男は言葉に詰まり目を強く閉じた。

そして何度も溜息に似た様な息を鼻から吐き出し、目を開けてまた拳を見つめた。


『・・・鍵を渡した時から、こうなる事になる気さしていたのに・・・私はハルミに鍵を渡しました。私はそれで夏恵とハルミから解放されたかったんです。』


『・・・安西さん』


『トモさん。その携帯は受け取って下さい・・・私を救うつもりで受け取って下さい』


そう言って男は席を立ち上がろうとした。


『安西さん!!』


僕は慌てて男を止めた。僕は今この場に取り残される事に恐れる様な錯覚に襲われた。

男は今にも泣き出しそうな顔でこちらを見た。

男もこの場にいる事に耐えられない感じだった。