『・・・篠屋さんの人は何人か来てますけど・・・あなたに会うのは初めてですね。』


中年が重い空気を拭い去ろうとしたのだろう、話の本線を逸らした。

僕も肯定的に話に付き合う事にした。

その方が僕にとっても幾分か気楽だ。

正直、僕は麦茶を待っているこの時間が苦しくて仕方が無かった。

早く逃げたかった。


 祈る様な思いでいると、中年は更に気を使って『煙草は吸わないんですか?』と灰皿を差し出す。

吸えば少し気持ちも楽になったかもしれないけど、僕はそこまで厚かましい態度は取れないと思い、丁重に断る。

兎に角、今は僕を空気のように思ってほしかった。

中年の好意がかえって僕には痛かった。