『・・・暑かったでしょう?・・・芳江こちら様に麦茶出してくれ。』
中年は電話をしていて先程の僕と芳江と言う女性のやり取りを聞いていなかったらしく、僕に再度麦茶を勧めた。
狭い事務所のつい立の向こうから冷蔵庫を開ける音とコップに氷を入れる音が響いた。
『・・・そうですか・・・やっぱり無理ですか・・・』
中年はくすんだ目のまま、こちらを見ずに独り言の様に言葉を吐いた。
『・・・ええ・・申し訳ありません。』
僕も中年の顔を見ずに答えた。
『何も電話でもよろしかったんですよ。わざわざ来て頂いて何か申し訳ありませんねぇ。』
中年は相変わらずテーブルの上を眺めたまま、こちらを見ずに労いの言葉を掛けてきた。
ヤニやホコリで本来の色を無くしているブラインドの隙間から今日の強い日差しが漏れている。
事務所の中はエアコンこそ効いているが、漏れ出した日差しが当たる部分の体温は冷える事は無かった。