『・・麦茶でもよろしいですか?』
『あっはい・・・い・いやお構いなく。』
年の頃も僕と変わらない位の僅かに肉付きの良い女性の問いに僕は返答を一瞬戸惑った。
僕は2人掛けの肘置きのニスが少し剥げかけてる、くたびれた革のソファーに腰を下ろし、先程の声の主と思われる中年の電話が終るのを待つ。
程無くして中年は電話を切り携帯を僕と中年の間にある年代物ではあるがアンティークとはとても言えないテーブルの上に置いた。
僕はこの時、初めて中年の顔を直視した。
部屋に入ってから10分以上は経っていた筈なのに、気まずさの為か僕はこの中年の顔を一度もまともに見ていなかったらしい。
中年は海沿いの人間だからなのだろうか肌が黒く、大きな白目がより白みを増して見えた。
ギョロリとした目と言った方が表現として正しいかも知れないが、中年の目にはギョロリと言う表現に相応しくない部分があった。
あんなに大きな瞳にギラギラとした輝きみたいな感じは一切無かった。
このビルの外壁の様にややくすんで見えた。