エレベーターのドアは閉まりかけ視界は本来の2分の1も無かった。

そんな僅かな隙間から女がこちらにエレベーターに乗る時に見せた様な軽い会釈をした様に見えた。

僕が会釈を返す間も無く無情にもエレベーターのドアは閉まり、数字が上へと昇っていった。

僕はほんの数秒、足元に差し込む小窓からの強い日差しの中、気を失った様な錯覚に襲われ上へと昇る数字を眺めた。

熱気がふいに僕を呼び覚ます。何かを諦めて僕は402に歩みを進める事にした。

エレベーターの冷気が恋しく思える。

あの白いブラウスの隙間から僅かに逃げていた女の涼しげな爽やかな香りが鼻先に甦る。

とても真っ白で、とても清潔な、キメ細やかな柔らかいパウダーの様な上品な香りの香水だった。

その香りは、あの真っ白なブラウスの僅かな隙間から逃げ出して僕の鼻先に飛び込んできた彼女の粒子なのだろう。

僕は彼女の粒子と熱気の混じった4階の空気を大きく吸い込み、402のドアを叩いた。

厚いドアの中から少し気の抜けた感じの中年の声が聞こえた。