僕は相変わらず箸を止めたまま二人の顔を眺めた。


 おそらく二人には幼い僕が感じていた通りの何かしらの深い確執があったのだろう。

そして二人の間には確執を取り払った僕の知らない出来事が起こったのだろう。

僕は何にしろお互い長年抱えていた過去を引きずる事をやめる為に、歩み寄った両親に少し嬉しくなっていた。


無口な父は必死にソーメンをすすっていた。

母は少し目を赤めながら『いっぱい茹でたから、まだ有るわよ。』と僕と父に言った。

僕は父と母にかける言葉を模索しながらソーメンをすすった。


『晴美にも教えてやりたいんだ・・・父さんと母さんは、もう大丈夫だって・・・』


『じゃぁ何も自分で行けばいいじゃないか・・・』


僕と父はソーメンを食べ終わり煙草に火を点けた。

母は食べ終わった食器を手際よく片付けていた。


『お前がいいんだよ』


『何で?』


父はそれ以上は何も言わず、空けた窓から簾越しに差す夏の日差しを仰いだ。