僕はまた少し驚かされた。


僕の記憶の中の父と母は一緒に商売をするほど仲の良い夫婦では無かった。

僕の幼い頃から父は忙しく、そして母も働きに出ており、お互いがお互いを避けている様に僕は感じていた。


『・・・どうして、また?』


僕は驚きを隠しきれず父とも母とも定めず食卓の真ん中に語りかける様に言葉を吐いた。


『・・・俺はずるかった。』


父は伏せ目がちのまま言葉を吐いた。


『晴美が海で溺れたのを母さんのせいにして逃げてた。・・・勿論母さんのせいじゃない事は分かってたけど・・・そうしないと気持ちの整理がつかなかった。』


僕も母も箸を止めたまま父の懺悔にも似た話しに耳を澄ませた。


『そうしてるうちに家がとても窮屈に思える様になって・・・仕事だけを拠所にして生きてきた。・・・トモユキお前にも何もしてやれなかった事を悪いと思ってる。』


父はそう言うと場の沈黙を拭い去る様にソーメンをすすった。

母はそんな父と僕の顔を交互に見ながら『私も悪いの・・』とだけ言ってソーメンを食べ始めた。