『そうなの・・・知らなかった。』


僕は両親の言った事に少し戸惑った。

父と母はお互い気まずそうに顔を見合わせて僕の言葉に頷いた。

そう言えば確かに姉の死について具体的に聞いたのは今日が初めてだった。


『・・・実は今年中に会社を辞めようと思ってる。』


父はソーメンをすすりながら僕の反応を伺う様に言った。

僕は特に動じる事も無く『それからどうするの?』とだけ聞いた。

正直言ったら僕は少しだけ驚いていた。

僕は幼い頃から父に遊んでもらった記憶が少ない。

父は会社で暮しているのではないかと思う程父と顔を合わす事も少なかった。

そんな父が定年を待たずに退社するとは思ってもいなかった。


『お父さんねぇ・・・母さんと一緒にお店やるんだって。お蕎麦屋さん。』


母が口下手な父に代わって僕に今後の予定を話してくれた。

父は少し気恥ずかしくなったのか、うつむきながらソーメンをすすった。